今回、実績としてご紹介するのは、パナソニック様とのお付き合いのきっかけにもなった「IFA国際コンシューマ・エレクトロニクス展」向けのモデル製作および展示会対応です。IFAは、ドイツ・ベルリンにて毎年開催されている大規模な国際展示会で、2017年〜2019年の3年間にわたり、出展を目的としたコンセプトモデルの製作および現地展示会への同行をARRKにて担当しました。
お客様の社内では、先行開発を担当する部門から商品や技術の企画・コンセプトを提案し、事業担当部門と合議して商品開発がスタートするという仕組みがありました。ARRKでは、「コンセプト案の具現化」という部分でご相談をいただいており、現在までの7年間で約130案件の実績を持っています。本件は、そのなかの1つという位置付けです。
IFAは世界最大のコンシューマ・エレクトロニクスとホームアプライアンス(家電製品)業界における、世界屈指のグローバルイベント(展示会)です。
2024年は100周年にあたる年で、1924年以来、IFAは技術発表の場として一世紀もの間、テクノロジーとイノベーションの最前線に立ち続けてきました。
かつてはアインシュタインも登壇したこのIFA。近年は欧州を中心とするスタートアップを集めた「IFA NEXT」を拡大し、サステナビリティゾーンを立ち上げるなど時代に合わせた成長を続けています。
紙のラフ資料など、ゼロベースのわずかな情報を低予算・短納期といった条件のなかで形にするのがARRKの役目です。デザインから設計、電装、試作といった一連の流れをお客様とともに作り上げています。
パナソニック様とは、以前より長いお付き合いをさせていただいています。本件のお客様で、パナソニック様の社内分社にあたる「くらしアプライアンス社」様につきましては、当時これから関係を構築する段階にあり、スタート前年の2016年にお困り事の相談をいただいたのがお付き合いのきっかけです。
当時の背景としては、デザインや設計開発、電装、試作の工程を各協力会社とお客様が直接連携をとる形で製品開発を行っていました。しかし、より良いものを製作するうえで、どうしても仕様決定に遅れが生じることもあり、コスト面や納期面など、すべてを管理するのが難しいと感じていたそうです。
あらゆるコミュニケーションを一手に引き受ける形で、統括して製作を担ってくれる会社を必要としており、ワンストップでの対応が可能なARRKにご相談をいただいた経緯です。
ここからは、2017年から3年間にわたり、ARRKがIFA向けに製作した展示モデルをご紹介します。
2017年は、商品群としてはキッチン周りということで、大型のキッチンステーションをはじめとする、白物家電を担当しました。
キッチンステーションは、大型の箱のような形状で、中央部分が可動式のディスプレイになっています。ディスプレイが蓋の役割を担っていて、なかはシンクという構造です。自動で立ち上がり、レシピなどの情報を確認しながら調理することが可能なほか、キッチン上面には、表面調理器と呼ばれる新たなカテゴリの調理器を備えています。
AGV(無人搬送車)のように人を避け、呼べば冷蔵庫が手元まできてくれるというコンセプトになります。食品だけではなく、食器を収納することも可能で、配膳と冷却の機能を兼ね揃えた自走型ロボットです。
クローゼットと洗濯機が一体化になったものです。左側のスペースに衣類を投入することで、ロボットハンドがそれを広げ、最下部の高圧洗浄機によって汚れを除去し、乾燥までを自動で行います。最後は右側のロボットハンドが衣類をたたみ、中央部分のボックスにセットしてくれる仕組みです。
2018年は、前年同様にキッチン周りの製品を担当しました。前年から引き継がれた白物家電がさらに進化を遂げ、近未来をイメージした次世代製品に仕上がっています。
2017年のキッチンステーションをさらにブラッシュアップ・大型化したもので、「察する」というコンセプトのもと、人間が行う作業を事前に感知し、作動します。
人間の「料理をしたい」という思考に対して、上部のフタが自動で開き、あらゆる選択肢にあわせた器具の提供を行う仕組みです。簡易洗浄機を備えることで、食器洗浄にも対応しており、キッチン上面には、IH調理器、表面調理器も設置されています。また、使用場面にあわせて、音や光といった細かな演出が用意されています。
自走可能な移動式の調理器です。昇降テーブルによって、キッチンとリビングなど場所を移動しながら、高さにあわせた食品の調理・配膳を行います。テーブル上面にはLEDで加飾された表面調理器を備えた構造です。
自動開閉式の扉を採用したオーブンです。食品をオーブンに入れようとすると、思考に対して先回りし、自動で扉が開くというコンセプトになります。
キッチン周りの煙や臭いを屋外へ排出するためのレンジフードです。フード内にプロジェクターを内蔵することで、調理スペース横にレシピ映像などを映写し、それを見ながら調理することができます。
白物家電とならび、お客様の主力分野になっている美容・ケア商品を中心としたラインナップになります。
WAVEと呼ばれる干渉波を用いて、毛根のマッサージを行う機器です。従来のマッサージ技術とは異なる、WAVEに適したマッサージ技術による新たな製品展開になります。
首にかける形で使用するネックケア商品です。蒸気を発生させることで、頸部に対してホットスチームやコラーゲンなどの美容効果を付加します。
果物や野菜からスープ、スムージーといった飲料を抽出する機器です。人間の体調を生体センシング等によって認識し、素材の最適な組み合わせをご提案します。整腸や美肌効果に優れた飲料を簡単に作ることができます。
温度や圧力を自動的にコントロールすることで、素材に最適な調理を行うフードケア商品です。美容や健康といったあらゆる側面から、使用者に必要な栄養成分を引き出します。内部で蒸気を発生させることにより調理を行うというコンセプトです。
展示会向けのコンセプトモデルは一般的な製品と違い、モデルごとに用途が変わります。今回のモデルでは、満足のいく動作や外観デザインが求められていました。そのため、動作に関わる部分や外観デザインに関わる部分には特に注力しつつ、見えない部分については徹底した省略化を図ることで、製作コストを抑えつつ納期にも対応し、お客様の想いを具現化したコンセプトモデルを製作しました。
本件の前提条件は製作コストや納期に対応しつつ、目的にあわせた最大限のパフォーマンスを実現することです。工法は、主に樹脂や金属の部品は切削加工を行いますが、形状が単純な部品については、板金を用いて構造をできるだけシンプルにします。見えない部分で汎用部品を使用できる場合は可能な限りそれを選択し、外観デザインに関わる部品は新規で製作する手法をとりました。
2019年のLIFTフードケア(鍋)では、燻製にするためのスモーク演出として、煙発生装置を用いた実験を行いましたが、お客様のイメージする風流やスモーク感を再現できず、難航していました。その後、アークでは代替となる工法を模索するなかで、ミストを使用した解決策をご提案。実際に擬似的な演出をお客様に確認していただくことで完成度を上げ、最終製品へとブラッシュアップしていきました。
スモークやミストといった、決して専門領域ではない分野に対しても、ARRKでは挑戦を惜しみません。過去の経験をもとに実現までの道筋を想定することで、新しい領域に対しても柔軟な対応を可能にしています。また、こうした取り組みが新たな実績となり、工法選択の幅はさらに広がっています。
2018年のアイランドキッチンを現地で設置する際、テーブル部分の動作に伴う異音が気になるというご指摘をいただきました。ARRK国内拠点にて動作テストを行った際には異常はなく、調査の結果、問題として発覚したのがドイツ現地の床の平面度です。
スライド時に異音が生じてしまうということで、製品下部にもぐり、設置し直す作業を2日間ほど繰り返し行いました。現地到着からIFA開催までの準備期間のうち、約半分の時間を設置に費やすことになり、海外対応の難しさを痛感した事例です。
また、製品によっては天井から吊り下げて設置を行うものもあり、別途設置業者を手配したうえで作業を進める必要がありました。各業者間の日程調整を含め、現地では常に緊迫したスケジュールのなかで設置準備に追われていました。
ARRKでは、設置や撤収はもちろん、展示会開催中の裏方業務についても積極的に対応させていただきます。お客様が展示ブースでどのように製品紹介を行うかなど、ARRKでは事前に絵コンテによる企画会議を実施。「見せ方」を踏まえたうえでの設計や動線など、あらゆる側面から展示会の成功にフォーカスして取り組んでいきます。
展示会モデルを製作して終わりではなく、いかにして反響を呼び込むか、ARRKではお客様と同じ目標に向かって伴走します。
ARRKでは、デザインや設計、電装、試作といったあらゆるフェーズをトータルでマネージメントすることが可能です。また、お客様内部の、より深い打ち合わせに参加させていただくことで、抽象的なお悩みに対しても、状況にあった解決策をご提案します。
さらに、ARRKでは海外展示会向けのコンセプトモデルの製作だけではなく、現地対応を含めた幅広い支援が可能です。該非判定や各種手続き、現地据付など、あらゆるタスクにも統括的に対応することができます。
さまざまな知見・バックグラウンドを持った人材がARRKには揃っています。こういった個人の持つ経験値が大きなアドバンテージとなり、あらゆる予測立てやリスク回避へとつながっています。
海外現地対応と一口に言っても、製品の分解や組立、設置、調整など、いくつもの工程が存在します。関連会社との連携や、必要な機材・工具の洗い出し、時間的制限はもちろん、現地ではさらに予期せぬ事態にも対応しなくてはなりません。
今回、ARRKでは現地据付を想定した入念なリハーサルを国内拠点にて実施しました。設計や生産といった各部門の人材が持つ多くの知見、肌感覚によるアイデアを、ARRKでは重要な価値として提供しています。展示会の成功に向けて、あらゆる不安要素を事前にクリアするために、ARRKは全力でサポートする姿勢です。
ARRKはメーカーとは異なり、さまざまな開発支援を行う会社です。そのため、設計部門一つにしても、これまでの実績・ノウハウを用いて、お客様のご要望を具現化することを第一に考え、支援を行っています。しかし、130点のご提案を目指すためには、自分たちのなかにない、新たな領域にチャレンジする必要がありました。
今回、こうしたARRKの挑戦によって、新しいものを生み出す「ワクワク感」をお客様に提供することができたと自負しています。いただいた課題に対して、「喜び」や「楽しさ」といったマインドが形となり、これまでにない解決策をご提案できたことは、非常に大きな収穫です。また、お客様からの共感を得ることで再び相談して頂けることが、ARRKにとっては何よりの喜びといえます。
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